「AIを入れれば経理が楽になると思ったのに、結局だれも使っていない」「AIが出した数字を、そのまま信じてよいのか不安」。こんなお悩みはありませんか。
人手不足が続く静岡市の中小企業にとって、AIは記帳や資料作成の時間を大きく減らせる道具です。ただし、ツールを契約するだけでは成果は出ません。
この記事では、静岡市で中小企業の経営支援を行う税理士が、ハーバード・ビジネス・レビュー(HBR)の研究をもとに次の3点を解説します。
- AIに任せる業務と、人が担うべき業務の分け方
- 社内にAIを定着させる4つのステップ
- 静岡市の中小企業を想定したモデルケースと、地元の支援制度の生かし方
結論から言うと、定型作業はAIに任せ、浮いた時間を資金繰りや経営判断に使うことです。この「時間の再投資」まで設計して初めて、業務効率化と経営支援の両方で成果が出ます。
なぜ「何でもAI任せ」は失敗するのか
AIに業務を丸投げすると、「もっともらしい誤り」「業務の流れが変わらない」「現場の反発」という3つの壁にぶつかります。
1. もっともらしい誤りを見落とす
生成AIは、事実と異なる内容を自然な文章で出力することがあります(ハルシネーション)。税額の計算、税法の解釈、補助金の要件などで誤りをそのまま使うと、申告ミスや資金計画の狂いに直結します。
税理士の実務でも、AIが示した税法の解釈は、必ず条文・通達・国税庁の公表資料で裏付けを取ってから使います。
2. ツールを足しても業務の流れは変わらない
今の手順のままAIを追加すると、「AIの結果を確認する作業」が増えるだけで、かえって手間が増えることがあります。成果を出すには、業務の流れそのものを見直し、AIを組み込む場所を決める必要があります(Davenport & Redman, 2025)。
3. 「仕事を奪われる」という現場の不安
説明のないまま自動化を進めると、社員は「自分の仕事がなくなるのでは」と不安を感じ、AIを使わなくなります(De Freitas, 2025; De Cremer, 2024)。
AIは判断の材料を速くそろえる道具であり、判断そのものと結果への責任は人が持ちます。この前提で、AIと人の役割分担を決めることが出発点です。
AIに任せる業務・人が担う業務の判断軸
AIに任せるかどうかは、「間違えたときの影響(エラーのコスト)」と「必要な知識の種類」の2つで決めます。知識の種類とは、ルールやデータにできる「明示知」か、経験や判断に根ざす「暗黙知」かということです。
これはHBRの論文「The Gen AI Playbook for Organizations」(Anand & Wu, 2025)が示した枠組みで、同論文は2025年のHBR Prize(年間最優秀論文)に選ばれています。

まず取り組むべきは左下の「ノーリグレット領域」です。右側の領域ほど、税理士や経営者の確認が欠かせません。
税理士・経理業務での振り分け例
| 業務 | 領域 | AIの役割 | 人の役割 |
|---|---|---|---|
| 銀行・カード明細からの仕訳 | ノーリグレット | 明細の取込と勘定科目の推測 | 例外的な取引だけ確認 |
| 議事録の要約、案内文の下書き | ノーリグレット | 下書きを作る | 送る前に読んで直す |
| 試算表・決算数値のチェック | 品質管理 | 前月比・前年比の異常値を洗い出す | 原因を確かめ、修正を判断(税理士) |
| 申告書の作成 | 品質管理 | 集計・転記の補助 | 税理士が内容を確認し、責任を持って提出 |
| 販促アイデア、ブログの構成案 | クリエイティブ | 案をたくさん出す | 選んで、自社らしく仕上げる |
| 事業承継・相続の方針、融資交渉 | 人間主導 | 過去データや論点の整理 | 経営者と税理士が話し合って決める |
なお、影響の小さい業務でも「確認ゼロ」にはしません。AIの出力を人が一度目を通す工程は、どの領域でも残します。
AIを社内に定着させる4つのステップ
AIは、ルール作り→小さな成功→仕組み化→時間の再投資の順に進めると定着します。いきなり全社で使うより、社員の不安を減らしながら一歩ずつ広げるほうが結果的に早く進みます(De Cremer, 2024; Davenport & Redman, 2025)。
Step 1:ルールを決め、社員の不安を取り除く
最初に決めるのは「AIに入力してよい情報」と「入力してはいけない情報」です。同時に経営者から、AIは人を減らすためではなく、付加価値の高い仕事に時間を使うための道具だと伝えます(De Cremer, 2024)。
- 入力しない情報の例:マイナンバー、従業員の給与明細、取引先の未公表情報
- 法人向けプランなど、入力内容がAIの学習に使われない設定を選ぶ
- ルールはA4用紙1枚にまとめ、全員が見られる場所に置く
税理士としての注意点 財務データや従業員の個人情報は、個人情報保護法やマイナンバー法の対象です。税理士にも守秘義務があり、当法人でもAIに入力する前に氏名・口座番号などを伏せる運用を徹底しています。
Step 2:小さな成功体験をつくる
最初は、顧客に直接届かない社内作業から始めます(De Freitas, 2025)。1〜2か月ほど、AIで減った作業時間を記録すると、効果が目に見えて社内に広がります。
- 会議の議事録の要約
- 取引先へのメールの下書き
- 経費精算の勘定科目チェック
Step 3:業務手順書に組み込み、指示文を共有する
個人の得意・不得意に頼らないよう、業務手順書(マニュアル)の中に「AIを使う工程」を書き込みます。うまくいった指示文(プロンプト)は、社内の共有フォルダにテンプレートとしてためていきます(Davenport & Redman, 2025)。
月次の経理なら、次のような流れになります。
- 銀行・クレジットカードの明細を会計ソフトに自動で取り込む
- AIが勘定科目を推測し、仕訳の候補を作る
- 経理担当者が例外的な取引だけを確認する
- 税理士が試算表をチェックし、気になる点を経営者に伝える
Step 4:浮いた時間の使い道を先に決める
AIで生まれた時間は、使い道を決めておかないと雑務やすき間時間に消えてしまいます(Anand & Wu, 2025)。何に使うかを先に決め、評価にも反映させます。
- 月次決算を早める(例:翌月10日までに試算表を確定)
- 資金繰り表を毎月更新し、半年先までの資金の動きを見る
- 金融機関への定期報告や、補助金の情報収集に時間を回す
静岡市の中小企業が「税理士×AI」で得られる成果
記帳や照合をAIに任せると試算表が早くそろい、その数字をもとに資金繰りや融資の手を早めに打てるようになります。ここでは、静岡市の中小企業でよくある状況を想定したモデルケースを3つ紹介します。
※以下はモデルケース(想定例)であり、特定の顧問先の実績ではありません。
ケース1:清水区の部品加工業(従業員25名) 試算表が早まり、設備投資の融資相談がスムーズに
- 課題:経理担当1名が手入力で記帳しており、試算表ができるのは翌々月。金融機関から最新の業績を聞かれても、すぐに答えられない
- AIに任せたこと:銀行明細の自動取込と仕訳候補の作成、前月比で大きく動いた科目の洗い出し
- 税理士が担ったこと:異常値の原因確認、設備投資計画と返済計画の作成、金融機関への説明資料の確認
- 期待できる変化:試算表を翌月中旬までに出せるようになり、毎月の数字を添えて融資を相談できる
ケース2:葵区のお茶の製造卸(従業員12名) 季節ごとの資金不足を早めに把握
- 課題:新茶の時期に仕入れ資金が集中し、毎年春先に資金が足りなくなる
- AIに任せたこと:過去3期分の月次データから、入出金の季節パターンを整理し、資金繰り表のたたき台を作る
- 税理士が担ったこと:たたき台の数字を経営者と一緒に確かめ、借入の時期と金額、在庫の持ち方を検討
- 期待できる変化:資金が足りなくなる数か月前に手を打てるようになり、慌てた借入が減る
ケース3:駿河区の飲食店(2店舗) レシート処理を減らし、補助金の検討に時間を回す
- 課題:店長が閉店後にレシートを手入力しており、本業の時間が削られている
- AIに任せたこと:レシートを撮影して読み取る機能(AI-OCR)での記帳、補助金の公募要領の要約
- 税理士が担ったこと:インボイスの要件確認、補助金の対象経費と自己負担額の試算、申請前の要件チェック
- 期待できる変化:レシート入力の時間が減り、店舗の改装や設備更新に使える補助金を落ち着いて検討できる
私の所感としては今までの経理作業とはかけ離れ、経理部が経営部門にまで入っていくようなイメージを持っています。米国では日本以上にCFOの責任も重いため、より経理部の重要度が高くなると言えるでしょう。
静岡市の中小企業が使える支援制度とAIの生かし方
AI導入の費用は、静岡市・静岡県・国の補助金で一部をまかなえる場合があります。公募要領の読み込みはAIに任せ、対象経費や資金繰りの判断は税理士と一緒に行うと、申請の精度とスピードが上がります。
| 制度名 | 実施主体 | 主な対象 | 補助上限・補助率 | 公募状況(2026年10月5日時点) |
|---|---|---|---|---|
| 中小企業等デジタル活用事業補助金 | 静岡市 | 業務の効率化・省力化、EC、テレワークなどのITツール導入 | 50万円・2/3 | 令和8年度は終了(5月15日〜7月3日)。申請には、デジタル分野の知見を有する者の意見書が必要 |
| 中小企業DX人材等育成支援事業補助金 | 静岡市 | 社員にデジタル・ソフトウェア技能の研修を受けさせる費用 | 10万円・2/3(DX・デジタル人材育成事業) | 令和8年度の申請を受付中(市のページによる) |
| 中小企業等収益力向上事業費補助金(DX推進枠) | 静岡県 | 収益力向上につながるDXの取り組み | 公式ページで確認 | 令和8年度分を公募。商工団体や金融機関などの伴走支援が必須 |
| デジタル化・AI導入補助金2026(旧IT導入補助金) | 中小企業庁 | AIを含むITツール(ソフトウェア、サービスなど)の導入 | 枠ごとに異なる | 2026年3月30日から交付申請を受付 |
※補助額・公募期間は年度ごとに変わります。公開前に各公式ページで最新の情報をご確認ください。
静岡市でAI活用に強い税理士を選ぶ5つのポイント
AIを使った経理の効率化と、その先の経営相談まで任せたいなら、次の5点を確認して税理士を選ぶと失敗しにくくなります。
- クラウド会計に対応しているか:銀行明細の自動取込やAIによる仕訳の推測を使えるかで、記帳のスピードが大きく変わります。
- 月次決算の締め日を示せるか:「毎月何日までに試算表を出せるか」を具体的に答えられる事務所を選びます。
- 情報管理のルールを説明できるか:AIに入力する情報の範囲と、AIの結果をだれが確認するかを説明できるかを確かめます。
- 資金繰り・融資・補助金まで相談できるか:記帳や申告だけでなく、浮いた時間を経営支援に使える体制があるかが大切です。
- 経営相談ができるか:そもそも税理士は経営支援のプロではありません。その税理士のキャリアを確認し、資格で言えば中小企業診断士やMBA,コンサルティング経験があるかを見ていきます。
よくある質問(FAQ)
Q1. AIに入力した財務データや個人情報が、外部に漏れる心配はありませんか?
A. 設定とルールを守れば、リスクは大きく下げられます。法人向けプランなど、入力内容がAIの学習に使われない設定を選ぶことが基本です。そのうえで、マイナンバーや従業員の給与など秘匿性の高い情報は入力しないルールを社内で決めておきます。
Q2. 社内にITに詳しい社員がいなくても、AIを導入できますか?
A. 導入できます。今の生成AIは、プログラミングではなく普段の言葉で指示できます(Daugherty & Wilson, 2024)。メールの下書きや議事録の要約など、簡単な作業から始めるのが成功のコツです。
Q3. AIを使うと、税理士に相談するメリットはどう変わりますか?
A. 「過去の数字をまとめてもらう」相談から、「これからの資金繰りや経営判断を一緒に考える」相談へと中心が移ります。AIが数字を早く整理するぶん、税理士はその数字をもとにした助言に時間を使えるようになります。
Q4. AIに税金のことを聞けば、税理士に相談しなくてもよいのでは?
A. 制度の概要を調べる下調べには便利です。ただし、AIの回答には誤りや古い情報が含まれることがあります。自社の申告や節税の判断は、最新の法令と事実関係を確認できる税理士にご相談ください。
Q5. AIを導入すると、税理士への報酬は下がりますか?
A. 記帳の作業量が減れば、記帳代行の費用を見直せる場合があります。一方で、資金繰りや融資の相談など支援の範囲が広がることもあります。料金の体系は事務所によって異なるため、契約前に確認しましょう。
まとめ
AIは「何でも任せる道具」ではなく、定型作業を引き受けて、経営判断のための時間を生み出す道具です。
- 任せるかどうかは「間違えたときの影響」と「必要な知識の種類」で決める
- ルール作り→小さな成功→仕組み化→時間の再投資の順に、社内に定着させる
- 浮いた時間は、月次決算の早期化や資金繰り、融資・補助金の検討に回す
静岡市でAIを活用した経理の効率化や経営支援、相続のご相談なら、Axia Japan税理士法人にお任せください。初回のお問い合わせは無料です。
執筆者
Axia Japan税理士法人 代表社員 福代和紀
Axia Japan Consulting合同会社 代表社員。税理士、米国公認会計士(Inactive)。京都大学MBA首席。
参考文献
- Anand, B. N. and Wu, A. (2025) “The Gen AI Playbook for Organizations”, Harvard Business Review, November–December 2025.(2025年HBR Prize受賞)
- Daugherty, P. R. and Wilson, H. J. (2024) “Embracing Gen AI at Work,” Harvard Business Review, September–October 2024.
- Davenport, T. H. and Redman, T. C. (2025) “How to Marry Process Management and AI,” Harvard Business Review, January–February 2025.
- De Cremer, D. (2024) “For Success with AI, Bring Everyone On Board,” Harvard Business Review, May–June 2024.
- De Freitas, J. (2025) “Why People Resist Embracing AI,” Harvard Business Review, January–February 2025.
支援制度の出典(2026年10月5日確認):静岡市 中小企業等デジタル活用事業補助金、静岡市 中小企業DX人材等育成支援事業補助金、静岡県 中小企業等収益力向上事業費補助金、中小企業庁 デジタル化・AI導入補助金2026